名古屋地方裁判所 昭和41年(わ)231号 判決 1968年2月07日
本店所在地
各古屋市中区橘町二丁目六番地
合資会社播磨屋井上藤次郎商店
右代表者代表社員
井上芳雄
本籍並びに住居
右同所
会社役員
井上芳雄
大正五年十二月一日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官田中豊出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告人合資会社播磨屋井上藤次郎商店を罰金二百万円に、被告人井上芳雄を懲役八月及び罰金百五十万円にそれぞれ処する。
被告人井上芳雄において右罰金を完納することができないときは金五千円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
但し、この裁判の確定した日から二年間被告人井上芳雄に対する右懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は全部被告人井上芳雄の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人合資会社播磨屋井上藤次郎商店(以下被告人会社と略称する)は、昭和二十四年七月四日設立せられ、本店を名古屋市中区橘町二丁目六番地に置いて、仏具、仏壇の加工並びに卸売、その他これに附帯する一切の業務を営んできた所謂同族会社であり、被告人井上芳雄は同会社の設立当初から引続き代表社員(無限責任社員)の地位にあつて同会社の業務一切を統轄掌理してきたものであるところ、被告人井上芳雄は被告人会社の業務に関し、同会社の所得の一部を秘匿して法人税を免れようと企て、
第一、被告人会社の昭和三十七年一月一日から同年十二月三十一日までの事業年度における実際の所得金額は金千三万四千八百五十三円であつて、これに対する法人税額は金三百七十一万三千二百二十円であつたのにも拘らず、取引商品の売上、仕入について所謂表帳簿、裏帳簿の二重の帳簿を備え、適宜売上金の一部を除外してこれを正規の帳簿(表帳簿)に記入せず別途経理とし、他人若しくは虚無人名義の簿外銀行預金にする等の方法を講じて所得の一部を秘匿した上、昭和三十八年二月二十八日名古屋市中区南外堀町六丁目一番地所在の所轄名古屋中税務署において、同署長に対し法人税の確定申告をなすに際し、同会社の右事業年度の所得金額は金百二十四万七千五百四十七円でこれに対する法人税額は金四十一万千六百七十円である旨過少に記載した虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて同会社の右事業年度における前記の正規法人税額と右申告法人税額との差額金三百三十万千五百五十円を逋脱し(別紙第一の(一)、(二)参照)
第二、被告人会社の昭和三十八年一月一日から同年十二月三十一日までの事業年度における実際の所得金額は金千二百四十二万四千三百三十八円であつて、これに対する法人税額は金四百六十万七千四百五十円であつたにも拘らず、前同様の方法によりその所得の一部を秘匿した上、昭和三十九年二月二十九日前記名古屋中税務署において、同署長に対し法人税の確定申告をなすに際し、同会社の右事業年度の所得金額は金百四十四万九千三百三十三円でこれに対する法人税額は金四十六万五千六百六十円である旨過少に記載した虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて同会社の右事業年度における前記の正規法人税額と右申告法人税額との差額金四百十四万千七百九十円を逋脱し(別紙第二の(一)、(二)参照)
第三、被告人会社の昭和三十九年一月一日から同年十二月三十一日までの事業年度における実際の所得金額は金千四百五十二万七百十円であつて、これに対する法人税額は金五百三十五万二千七百五十円であつたのにも拘らず、前同様の方法によりその所得の一部を秘匿した上、昭和四十年三月一日前記名古屋中税務署において、同署長に対し法人税の確定申告をなすに際し、同会社の右事業年度の所得金額は金百九十七万八千三十四円でこれに対する法人税額は金六十三万七千三百四十円である旨過少に記載した虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて同会社の右事業年度における前記の正規法人税額と右申告法人税額との差額金四百七十一万五千四百十円を逋脱し(別紙第三の(一)、(二)参照)
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実関係につき
一、被告人井上芳雄の当公判廷における供述
一、被告人井上芳雄の検察官に対する昭和四十一年二月三日付供述調書
一、被告人井上芳雄の大蔵事務官に対する昭和四十年四月十九日付質問てん末書
一、井上幸三郎、杉木守一の検察官に対する各供述調書
一、井上幸三郎、高木政男の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一、名古屋法務局登記官作成にかかる被告人会社の登記簿謄本
判示第一事実関係につき
一、大蔵事務官作成にかかる昭和四十年九月二十日付証明書二通(昭和三十七年度分に関する法人税調査省略等決議書写及び法人税確定申告書写添付分)
一、大蔵事務官作成にかかる昭和四十一年二月五日付、同月十六日付及び昭和四十年十二月十日付脱税額計算書各一通(いずれも昭和三十七年度分に関するもの)
一、押収してある総勘定元帳一冊(証第七十七号)及び金銭出納帳一冊(証第七十八号)
判示第二の事実につき
一、大蔵事務官作成にかかる昭和四十年九月二十日付証明書(昭和三十八年度分に関する法人税確定申告書写添代分)
一、大蔵事務官作成にかかる昭和四十一年二月五日付、同月十六日付及び昭和四十年十二月十日付脱税額計算書各一通(いずれも昭和三十八年度分に関するもの)
一、押収してある総勘定元帳一冊(証第七十九号)及び金銭出納帳一冊(証第八十号)
判示第三の事実につき
一、大蔵事務官作成にかかる昭和四十年九月二十日付証明書(昭和三十九年度分に関する法人税確定申告書添付分)
一、大蔵事務官作成にかかる昭和四十一年二月五日付、同月十六日付及び昭和四十年十二月十日付脱税額計算書各一通(いずれも昭和三十九年度分に関するもの)
一、押収してある総勘定元帳一冊(証第八十一号)及び金銭出納帳一冊(証第八十二号)
判示全事実を通じ
(売上勘定及び売掛金勘定につき)
一、当裁判所の証人斎藤健太郎、同木村昇に対する各尋問調書
一、前田平男、金田栄次郎、竹井六郎、吉田みつえ、樋口勇造、宮田巳之助、奥出一夫の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一、木村昇、斎藤健太郎の大蔵事務官に対する各質問てん末書末尾に添付された仕入帳写
一、大西叩一郎の大蔵事務官に対する上申書
一、滝田稔、吉崎弘、赤沢猛、山口之徳、鬼頭正一、中田賢太郎、京野三郎、中野二郎、中村重雄、青地章喜、小川徳男、神林傅、関靖幸、長谷川治郎、長谷川好、三橋トク、市川盛行、佐藤孝一、小長井重郎、山口庸三、岡田秀二、吉田治市、藤田馨三、竹井六郎、松本英男、宮田正之助、樋口貞、三村実、三村繁己、花田安男、岩水ミサヲ、長谷川才蔵、吉川礼蔵、梅谷一三、進藤彦一、上田豊穂、白川徹、松山まつ、菊川浩三、松浦伝四郎、高久保松夫、本庄栄次、殿川大関、木村善教、鴇田儀一郎の大蔵事務官に対する各回答書
一、大蔵事務官作成にかかる売上勘定計算調書三通
一、押収してある売上帳四十四冊(証第一号乃至第四十四号)、領収書請求書綴一綴(証第六十五号)
(雑収入勘定につき)
一、被告人井上芳雄の大蔵事務官に対する陳情書二通
一、大蔵事務官犬飼二作成にかかる昭和四十年四月十九日付(枚務十九枚の分)及び大蔵事務官塩沢哲夫作成にかかる同日付(枚数六枚の分)各現金有価証券等現在高確認書
一、大蔵事務官作成にかかる印鑑現在確認書二通
一、木下章雄作成各義にかかる東海銀行大須支店備付の普通預金元帳写一綴及び同店備付定期預金印鑑、希望積立預金元帳等写一綴
一、清水純作成にかかる東海銀行大須支店備付の普通定期預金元帳の写一綴
一、柴田隆司作成にかかる三和銀行上前津支店備付の定期予金元帳写一綴(枚数四十二枚の分)、同店備付の定期預金出金票写一綴及び通知預金元帳写一綴
一、田村哲、服部忠善作成名義にかかる、第一銀行大須支店備付の定期預金元帳及び伝票による定期預金調査表一綴及び通知預金元帳写一枚
一、海老沢巧作成名義にかかる協和銀行赤門通支店備付の定期預金元票写一綴及び定期預金調査表一綴
一、宮島鈔治作成にかかる名古屋相互銀行上前津支店備付の定期預金元帳兼印鑑票写一綴
(仕入勘定、外註工賃勘定及び買掛金勘定につき)
一、山下惣一、清水みねよ、粟津卯一郎、保志潔之、大江久、奥出市郎、恩地徳五郎、今井外博、野村佐太郎、佐藤利男、今山実、神取義彦、出野虎雄、青山元春、中村音次郎、小川重蔵、近藤慶一、久野英祐、宮長勇、菅沼章八、柴山仏壇製造店、伴野重彦、深谷喜代三郎、野田仏壇、鶴見立夫、兼松利一の大蔵事務官に対する各回答書
一、大蔵事務官作成にかかる仕入勘定、外註工賃計算調書
一、押収してある仕入帳二十冊(証第四十五号乃至第六十四号)、領収書請求書綴一綴(証第六十五号)
(給料勘定につき)
一、第三回公判調書中証人浅野鉦一の供述記載部分
一、被告人井上芳雄の大蔵事務官に対する昭和四十年六月四日付質問てん末書及び同年八月十日付陳情書
一、高木政男の大蔵事務官に対する質問てん末書
一、宇佐見豊の名古屋国税局長に対する報酬額についての回答書三通
一、増田慶次の大蔵事務官に対する回答書
一、松原儀兵衛の名古屋国税局長に対する証明書
一、大蔵事務官作成にかかる給料計算調書三通
一、大蔵事務官作成にかかる井上芳雄に関する個人収支計算調書
一、押収してある手帳一冊(証第六十六号)、金銭出納帳三冊(証第六十七号、第六十九号第七十一号)、領収書等綴三綴(証第六十八号、第七十号及び第七十二号)、源泉所得税、県市民税領収書綴一綴(証第七十三号)、健康保険、厚生年金領収書綴一綴(証第七十四号)、源泉徴収納付書一綴(証第七十五号)、給与台帳一冊(証第七十六号)
(交通接待費勘定、旅費勘定につき)
一、被告人井上芳雄の検察官に対する昭和四十一年二月七日付供述調書
一、被告人井上芳雄の大蔵事務官に対する昭和四十年八月十九日付質問てん末書
一、井上幸三郎の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書
一、井上静子作成にかかる交際費に関する昭和四十三年一月十六日付上申書
一、井上幸三郎作成にかかる昭和四十三年一月付上申書
(包装費、荷造費勘定につき)
一、被告人井上芳雄の検察官に対する昭和四十一年二月七日付供述調書
一、被告人井上芳雄の大蔵事務官に対する昭和四十年八月十九日付質問てん末書
一、水谷孝作成にかかる昭和四十三年一月十六日付上申書
一、杉木守一の検察官に対する供述調書
一、大蔵事務官作成にかかる仕入勘定外註工賃計算調書三通
一、押収してある仕入帳三冊(証第四十七号、第五十三号及び第五十九号)
(運賃勘定につき)
一、被告人井上芳雄の大蔵事務官に対する昭和四十年八月十九日質問てん末書及び同年八月十日付陳情書
一、被告人井上芳雄の検察官に対する昭和四十一年二月十五日付及び同月十六日付各供述調書
一、押収してある金銭出納帳三冊(証第六十七号、第六十九号、及び第七十一号)
(家賃勘定につき)
一、被告人井上芳雄の大蔵事務官に対する昭和四十年八月十九日付質問てん末書
一、高木政男の大蔵事務官に対する質問てん末書
一、押収してある金銭出納帳三冊(証第六十七号、第六十九号及び第七十一号)
(雑費勘定につき)
一、被告人井上芳雄の検察官に対する昭和四十一年二月七日付供述調書
一、被告人井上芳雄の大蔵事務官に対する昭和四十年八月十九日付質問てん末書
一、井上静子作成にかかる間食費、賄費等に関する昭和四十三年一月十六日付上申書
(雑損勘定につき)
一、被告人井上芳雄の大蔵事務官に対する昭和四十年八月四日付質問てん末書
一、押収してある売上帳二冊(証第二十一号及び第三十三号)
(当座預金勘定につき)
一、平野利雄作成にかかる三和銀行上前津支店備付の当座預金元帳写二綴
一、田村哲、服部忠善作成にかかる第一銀行大須支店備付の当座勘定契約書写一綴、当座預金勘定元帳写二綴
一、押収してある銀行勘定元帳二冊(証第八十三号及び第八十四号)
(普通預金勘定につき)
一、被告人井上芳雄の大蔵事務官に対する陳情書二通
一、大蔵事務官犬飼二(枚数十九枚の分)、同塩沢哲夫(枚数六枚の分)各作成にかかる昭和四十年十九日付各現金、有価証券等現在高確認書
一、大蔵事務官作成にかかる印鑑現在確認書二通
一、木下章雄作成名義にかかる東海銀行大須支店備付の普通預金元帳写一綴
(定期預金勘定、仮払金勘定につき)
一、被告人井上芳雄の大蔵事務官に対する昭和四十年四月十九日付及び同年六月四日付各質問てん末書
一、被告人井上芳雄の大蔵事務官に対する陳情書二通
一、大蔵事務官犬飼二(枚数十九枚の分)、同塩沢哲夫(枚数六枚の分)各作成にかかる昭和四十年四月十九日付各現金、有価証券等現在高確認書
一、大蔵事務官作成にかかる印鑑現在高確認書二通
一、柴田隆司作成にかかる三和銀行上前津支店備付の定期預金元帳写一綴(枚数四十二枚の分)及び同店備付の定期預金出金票写一綴
一、田村哲、服部忠善作成にかかる第一銀行大須支店備付の定期預金元帳及び伝票による定期預金調査表一綴
一、海老沢巧作成の名義にかかる協和銀行赤門通支店備付の定期預金元票写一綴及び定期預金調査表一綴
一、宮島鈔治作成にかかる名古屋相互銀行上前津支店備付の定期預金元票兼印鑑票写一綴
一、清水純作成にかかる東海銀行大須支店備付の普通定期預金元帳の写一綴
一、木下章雄作成にかかる東海銀行大須支店備付の定期預金印鑑希望積立預金元帳等写一綴
(通知預金勘定につき)
一、柴田隆司作成にかかる三和銀行上前津支店備付の通知預金元帳写一綴
一、田村哲、服部忠善作成にかかる第一銀行大須支店備付の通知預金元帳写一綴
一、押収してある銀行勘定元帳二冊(証第八十三号及び第八十四号)
(受取手形勘定につき)
一、被告人井上芳雄の大蔵事務官に対する昭和四十年六月四日付上申書
一、押収してある金銭出納帳三冊(証第六十七号、第六十九号及び第七十一号)
(法令の適用)
被告人井上芳雄の判示第一乃至第三の各所為は、いずれも昭和四十年法律第三十四号法人税法附則第十九条、同法により改正される以前の旧法人税法第四十八条第一項、第二十一条第一項、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するので、それぞれ所定の懲役刑及び罰金刑を併科することとし、以上は刑法第四十五条前段の併合罰であるから、懲役刑については同法第四十七条本文、第十条により重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法第四十八条第二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で同被告人を懲役八月及び罰金百五十万円に処し、右罰金を完納することができないときは同法第十八条により金五千円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、なお右懲役刑については諸般の情状にかんがみ、その執行を猶予するのが相当であると思料されるので、同法第二十五条第一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、
右被告人井上芳雄の本件犯行は、被告人会社の義務に関しなされたものであるから、前記旧法人税法第五十一条第一項、第四十八条第一項、第二十一条第一項、刑法第四十五条前段、第四十八条第二項を適用して、その所定の罰金額の範囲内で被告人会社を罰金二百万円に処し、
訴訟費用は、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により、被告人井上芳雄の負担とする。
以上の理由により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 野村忠治 裁判官 松永嗣 裁判官 植田俊策)
別紙第一の(一)
昭和37年度 犯則所得の内容(損益計算書勘定)
<省略>
<省略>
別紙 別紙第一の(二)
昭和37年度 犯則所得の内容(貸借対照表勘定)
<省略>
別紙第二の(一)
昭和38年度 犯則所得の内容(損益計算書勘定)
<省略>
(註) 右表中括弧内は犯則所得とはされていないものである。
<省略>
別紙第二の(二)
昭和38年度 犯則所得の内容(貸借対照表勘定)
<省略>
(註) 右表中括弧内は犯則所得とされていないものである。
別紙第三の(一)
昭和39年度 犯則所得の内容(損益計算書勘定)
<省略>
<省略>
別紙第三の(二)
昭和39年度 犯則所得の内容(貸借対照表勘定)
<省略>